遙かなるマチョジニア

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ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ 感想

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夜の海辺、はたまた極寒の地、南極でデータロガーを動物に取り付け研究を行った著者の冒険記。 私の仕事は研究色が濃く、どうしても胸が熱くならざるを得ませんでしたので紹介します。

はじめに
一章 カメが定温動物でトリが変温動物?
二章 浮かび上がるペンギンと落ちていくアザラシ
三章 研究を支えるハイテクとローテク
四章 アザラシは何のために潜るのか?
五章 ペンギンの潜水行動を左右するもの
六章 ペンギンはなぜ一列になって歩くのか?
七章 教科書のウソとホント
あとがき
参考文献

まずは、教科書についての言及を。

p.38

小学校で使われている教科書には、小さなウソが含まれている。正しいことしか書かれていないと言っても、ほぼよいだろう。中学校の教科書には、中くらいのウソが混ざってくる。高校の教科書には、一見もっともらしく思えるような高等なウソが含まれている。大学で使われている教科書には、大ウソが書かれてあるという話である。

つまり、基準は「易しさ」ではなくて、「普遍的」であるかどうかなのです。

そして著者は、冒険の中でその普遍的な知識を覆す大発見をしました。

しかし、この発見について、あるウソを告白します。 それは、最初からその発見をするために研究を行ったわけでない、ということでした。

p.229

私がもし中学校で学んだことをしっかりと覚えている優等生だったら、「ウミガメは変温動物だから、体温は水温に等しいはず。だから胃の中の温度を測定したところで、餌の捕獲を把握することはできない」と論理的に考え、そんな調査はそもそも計画しなかったはずなのである。  ところが、怪我の功名とでも言うべきか、実際に測定してからウミガメの体温が水温よりもいくらか高く、一定に保たれていることに気がついた。「あれ?」と不思議に思って中学校の教科書を久しぶりに開いてみたら、カメの体温について、発見をしてしまったことを発見したという次第である。

現在の生物学では、仮説検証型が主流のようです。 まず、目標を定め、実現方法をデザインする。

しかし、著者の行った研究ではこの方法は難しいようです。

p.253

バイオロギング研究分野では、上記のようなコントロールされた条件下における仮説検証型の野外実験は、ほぼ不可能である。野外環境下を勝手に泳ぎ回る動物たちから得られるデータである。われわれが測定できないパラメータも多く、比較のために諸条件を統一して実験することはできない。

ではどうするか。著者はデータを収集することに身を捧げました。 そして、得られたデータから矛盾しない仮説を立てて分析を行う、この作業を繰り返したのです。

p.267

これまでの科学の歴史を見る限り、具体的目標を掲げて行われる研究が、当初の予定に沿った成果を収めることはごくまれである。研究者一人一人が、純粋に自分の興味の赴くままに突き進んだ先に着いた発見が、結果的に予想外の分野で大きく役に立つといった例が非常に多い。

目標が明確でないのにも関わらず、 極寒の地で命の危険を冒しながらも研究を遂行するモチベーションはどこから来るのでしょうか。

その答えは、本書の結びにありました。

p.281

「求む男女。ケータイ圏外。わずかな報酬。極貧。失敗の日々。絶えざるプレッシャー。就職の保証なし。ただし、成功の暁には、知的興奮を得る。」